LESCAUT
 たまらない高揚感がある。
 ヴォルグも自分も普段はスキンシップ過多な方ではない。というより一度触れてしまえば先の行為をせずにはおれない、というのが速水にとっては正しい言い方かもしれない。でも受け入れる立場のヴォルグは速水からのモーションを待っているのが常で、普段偶然に触れ合ってしまったりすると逆にビクリとしてあわてて離れたりするのだ。
 だがそんなヴォルグも情事になるといつも速水と離れることを嫌う。それはいっそ憐れに思うほどだ。その腕が唇が切ないほど速水を乞う姿ををこれまで幾度となく見せられた。見るたびヴォルグを己のモノだ、と、他の誰にも渡せないと速水は思う。
 こぼれてしまった涙をとどめたいのかヴォルグがヒクヒクとせわしなく息を吸う。腕の中で小刻みに震えるこの白く滑らかな、しかし数度の情交に乱れた跡をまざまざと残す躰を前に、速水はもう己れを制御する術を知らない。
 ヴォルグの力の抜けた両膝を割るように速水が自分の下肢を滑り込ませると、またピクリとヴォルグが反応した。

 ヴォルグはずっと、速水を求める自分を持て余している。どうしていいか判らない。ただ速水に触れたくて、触れて欲しくて、ただそれだけで体も心も頭の中も満ちる。
 速水がくれるすべてのものを受け入れるだけの自分になる。自分が速水で満たされる。気持ちは涙や精液になって溢れるのかもしれない。
 速水。速水。
 ただ速水が欲しい。
「アゥ、ああぁ…」
「ヴォル…グ…っ…」
 速水が好き。本当にどうしていいか判らない。好き。好き。
 速水が自身を揺すりたてながら自分へと侵入してくる、その感覚でヴォルグの全身は総毛立ち、感極まって切なく泣き喚いた。
「っあきゃゥ、アァァァっ……」
「……………っ」
 速水が息を飲む気配がする。でもヴォルグは自分の体をもてあまし過ぎていて速水の表情を確かめる余裕がない。 だがそのまま行為を進めるかに見えた速水がなぜだかそこから入って来ない。代わりにそっとヴォルグの乱れて汗で張りつく前髪を掻きあげた。おそらくヴォルグの高すぎる嬌声に驚いて心配した速水が己れの様子を伺ったのだろう、と気づいたのはずっと後でこの時は速水の仕草の意味もわからなかった。
 足りなくて、もっともっと速水でいっぱいになりたくて、そのことを速水に伝えたいのに唇はふぅふぅと荒い息を吐き出すのが精一杯でひとつも言葉にできない。代わりのようにまた、涙がこぼれた。
 速水の手は優しい。もどかしくてたまらなくなる。自分が信じられないくらい欲張りになってゆく。はっはっと短く呼吸をして、震える手を伸ばして、ヴォルグは速水の腕を掴む。いやいやをするように首を振り、その目で切なげに懇願する。
 お願い、お願い、優しくしないで。僕のことをまるで想っていないみたいに乱暴に貫いて。溢れるくらい貴方で満たして。貴方より僕の方が貴方を思っていると信じている僕を、どうか打ちのめして。
 その思いが通じたのかはわからないが、何かしらを感じとったのか速水はとどめていた動きを再開した。速水の熱がひとつひとつ躊躇うことなく確実にヴォルグの中へと埋められていく。
 訳がわからなくなる時よりこんな風に速水の存在をまざまざと感じ取れる時の方がヴォルグは好きだった。例えばそれが痛みの感覚を伴うことがあったとしても、それすら速水からもたらされたものならばヴォルグにとっては幸福でしか有り得ない。まして今は、痛みどころか何度も解放して過ぎる程に敏感になった体から突き抜けるような官能だけが溢れてくる。
「ゥ…アァ…ッ、ん…っ」
 この幸福感を速水に伝えたくとも口から洩れるのは甘いあえぎばかりだ。全てを収め終えた速水がさらに深くヴォルグの方へと体を倒してくる。待ちこがれたようにヴォルグはその肌へとすがりついた。
 速水が一瞬腰を引き、自身が引き出されたとき、ヴォルグは思わず腰を速水の方へと浮かしてしまったが、速水は片手でヴォルグの後頭部を抱き、それから勢い良く腰を落とし、貫いた。ヴォルグが甲高い叫び声をあげると、また速水がヴォルグの中から出て行き、また抉られる。速水の腰の動きはだんだん早くなり、乱暴に打ち付けられる。まったく自分を気遣わない様子に、ヴォルグの全身がこらえきれない歓喜で溢れる。それほど自分を求めてくれているのだ。  気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。このまま速水と一緒に高みへ行ける。早く行きたい。早く、早く、早く。
 嬉しくて嬉しくて、なんだか判らなくなって、泣きながら速水にしがみついたとき。
「……ッッ、く、……は……っ」
 ヴォルグの中の速水が締め付けられながらもわずかに跳ね、速水の腰の動きが一瞬止まった。生温い熱を内側に感じて、ヴォルグはウワ……、と少し感動した。速水が先に達したのだ。
「っ、……ふ……っ」
 月明りの中の、少し高めの速水の掠れ声。ヴォルグの背筋はぞくぞくと震えた。うつむいた速水の顎からぽたりと汗が落ちる。目を瞑り官能的に眉をひそませて、かたちのいいくちびるから吐息を漏らす。
「(速水………)」
 ヴォルグは全身がとろけるような感覚を覚え、短い吐息の下、うるんだ瞳でぼうっとそんな速水を見つめた。
 まだ速水は大きく胸をあえがせている。その振動が繋がったままの部分からヴォルグの体の内側へと響いてくる。整わない呼吸を漏らすばかりのくちびる、達した瞬間に力強く食い込まされたまま指の感触、月明かり晒されたにゾッとするほどなまめかしい裸身、それら全てが己れの体によってもたらされた快楽にうち震え高みへと登りつめさせたのかと思うと、またそうさせた者だけがこの光景を見て味わうことが出来るのかと思うと、ヴォルグはかぁっと急激に自分の熱が高まっていくのを感じた。
 余韻に脈動する速水のそれを何をされている訳でもないのにヴォルグの肉壁が恐ろしい力で自らきつく締め付けていく。それに伴いヴォルグの腰が自然に浮いてその背がしなるように弓なりに反らされた。
「…ァッ、アッ、はっやみ……ッッ、ァア…!!」
「…ッ、ヴォル…ッ、きつ…っ」
 速水が苦しげに眉を一層しかめる様ももうヴォルグを掻き立てるものにしかならなくて、ヴォルグは無意識に自分から速水に擦り付けるようにしてどうにもならない程に高まった体を解放させた。
 打ち上げられた魚のように何度も跳ね、掠れた泣き声をあげるヴォルグを見下ろして、ますます自身がヴォルグの中で締め付けられるのを感じて速水が目を閉じる。
「締め………スギ………だっつ、の…………」
「………アッ、………ゃ………っ」
「…………?」
 速水が身を引こうとした時、ヴォルグは咄嗟に速水の腕を掴んだ。短い呼吸のまま速水を懇願するように見つめて首を振る。
「………イ、ヤ………抜かないで………下さイ………」
 精液の散らばる胸を上下させて、絶頂の余韻に震えながらヴォルグは知らず甘えた声を出した。
「……どう、しろってんだよ。ん?」
 速水が腰を揺らすと、ヴォルグは焦って速水にしがみついた。
「ンー!」

 速水は思わず笑みを漏らした。何度もしたいというよりは、自分とただ離れたくないだけなのだということは良く判っている。
 だがそんなことを今のこの状況で言われては誰だって燃え上がらないわけにはいかない。なかば言い訳めいたことを思いながら、速水はヴォルグの髪に唇を落とし、再び動き始める。ヴォルグが自分のこの手で乱れる様を見るために。



※至は続かせる気満々でしたが(最後の速水で判る笑)まっきーさんがギブアップしたので終了。(大笑)
ちなみにまっきーさんはこのあと朝チュンを3行書いて送ってきた。(笑)
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