「イヤ、あ、あんっ」
「っく……」
「子津く、あっ、ダメ、あぁっ」

 傍の平らな岩の上、覆い被さっている子津の躯ごと大きく震え、二人は同時に熱を吐き出した。

「……ぁ……っ……」
「はぁっ…はぁっ…」

 伏せた睫毛を震わせながら、切なそうに呼吸をする牛尾を見下ろす。透き通るくらいに滑らかな肌の上に、桜色の花びらが散っている。自分で付けておきながら、その官能的な美しさにしばらく見蕩れた。子津が腰を引こうとすると、牛尾の手がそれを拒むように押さえる。

「……イヤ……」

 何を、と子津が牛尾の顔を覗き込むと。

「……抜かないで……」

 快楽の涙に濡れた瞳の懇願だった。それを見てしまうと、まだ牛尾の中に入っている子津自身が、ひときわ質量を増す。子津が思わず呻くように体を捩ると、牛尾は唇を震わせて子津にしがみついた。

「や、ダメ、動くと……」
「だ……って、キャプテン、これって……」

 眉を顰めながら尚も子津が微動すると、牛尾のいちばんいいところを擦ってしまったようで、牛尾ははびくんびくんと体を揺らし、二度目の絶頂を迎えた。

「ひあぁー……っ」

 自分の胸と腹をしとど濡らして、牛尾は今度こそぐったりと頬を傾けた。

(……可愛い)

 まさか、自分でもそれだけで達してしまうとは思わなかったに違いない。力尽きたにも関わらず、自分の腕を掴んだままの牛尾を見て思う。子津はしばらく迷ったが、また同じことになると流石に体が心配だからと、再び腰を引こうと試みる。牛尾はぎゅ、と子津の腕を掴み、首を振った。

「お願い」
「キャプテン……」
「淋しい……行かないで」

 子津が瞬きをすると、牛尾は微かに微笑んだ。

「嬉しい……んだ、僕と子津くんが繋がってるのが。……っん」

 喋りながら、牛尾は圧迫感に息を潜める。

「も、少し……このままでいたい、……っ」
「キャ、キャプテン……」
「ごめん……ね、つらい?」
「いえ……」

 拷問だと子津は思った。これだけ愛しい人を目の前にして、しかも繋がった状態だというのに、動いてはいけないなんて。でも、でも、

 なんて可愛いんだろう。
 ボクはこんなに可愛い人を、この手で抱いているんだ。

「キャプテン……」

 勝手に呼んでしまう唇を、震えている牛尾の睫毛にそっと落とす。それが合図になり、牛尾は顔を少し上げて唇を重ねる。唇を動かすと、自然に腰も揺れてくる。子津はいけないと思いながらも、愛しい人の唇は柔らかく、甘く、頭の芯を痺れさせる。胸に置いた手のひらで紅い蕾をまさぐると、牛尾の身体がびくびくと揺れる。それが可愛くてつい両手を使い愛撫する。回りを優しくなぞり、親指と人指し指でこねくり回してみたりすると、牛尾は身を捩って嬌声をあげる。

「あんっ、やんっ、あぅ…」

 牛尾の中がひくついているのが判り、いよいよ我慢がならなくなる。牛尾御門キャプテンという人は清廉潔白で、きりっとしていて、カッコよくて、そういった普段のキャプテンの姿が一瞬、脳裏に浮かぶ。

 みんな、キャプテンがこんなに可愛い人なんて、知らないんだ。知らないままでいい。ボクだけでいい。

(動かしたい)

 大きく息をするために開いた牛尾の唇が、いいよ、と動いた。子津は汗で張り付いた牛尾の髪の毛を掻き上げて額に口付けを落とす。牛尾の熱い溜息が頤にかかる。キスをするだけでこんなにも幸せな気持ちになれる事に改めて気付いてしまって、子津は少し笑った。瞼、鼻梁、頬と口付けの雨を降らせながら、びくびくと震える牛尾の中に収めた自分を、ゆっくりと入口まで引き抜く。牛尾の身体がまた震えた。

「あっあ、やぁ」
「っは…ぁ…っ」

 牛尾の内壁が縋るように絡み付いてきて、子津は思わず声を漏らした。気持ちよすぎてどうにかなるという事が、この世には確かにあるらしい。子津は挿入を始めた。もうどこが感じる部分なのか判っている。だがもっと知りたい。この人の事なら何でも知りたい。これが恋というなら恋で、狂っているというのなら狂っているということだ。ゆっくりと腰を動かしながら巧みに秘部を突いてゆくと、牛尾は子津の首に手を巻き付かせて抱き着いた。

「あっ、あ、あ、子津くぅんっ」
「キャプテン……っ、ココっすか」
「あっあっあっ、やだ、だめぇ」

 子津の肩に額を押し付けて泣きじゃくる牛尾の頭を左手で抱き、髪に口付ける。同じように涙を零す牛尾自身に右手を伸ばして包み込むと、牛尾の身体はいっそう揺れた。

「ひぁぁっ」

 激しく擦る中とは逆に、それを優しくなぞり上げながら、ピンク色に立ち上がる胸の飾りを嬲る。軽く摘まみ上げ、押しつぶし、擦りあげると、牛尾の内壁はびくびくと子津を締め付けた。

「キャプテン……凄いっす……っく、は……あっ」
「あっ……あっ……やぁっ……」

 余りの快感に力無く首を振る牛尾の唇を啄んで、子津はそっと耳元に囁いた。

「イッて……いいっすよ」

 ボクの、かわいいひと。

「ひあぁっ……あ、あぁぁぁん………!」

 その言葉に導かれるように、牛尾は子津にしがみついたまま切ない悲鳴をあげた。子津の右手に吐き出すと同時に、牛尾の内壁に子津の熱い情が叩き付けられる。

「うっ…く、あ、……はぁ……っ、はぁっ」
「あ、あぁ……ん」

 息を震わせて、牛尾はまるで子津の存在を確かめるように、最後の一滴が注ぎ込まれるまでしがみついた腕を離さない。

「……子津……くん………すき……」

 荒い呼吸、掠れる声で、それだけ言って、牛尾は目を閉じた。閉じた瞼に唇を落とし、子津は牛尾をきつく抱き締めた。




 ずっとこのままで居たいけど、と牛尾が切り出して(子津はここら辺はやっぱりキャプテンだと思った)、露天風呂から出ることになった。流石に各部屋の喧噪も落ち着いてきて、寝る前にひとっ風呂という部員もいるだろう。この状態ではまずい。牛尾は子津の手のひらを掴んで、名残惜し気に、出ようかと呟いた。

「はいっす。その前に、汗だけ流していいっすか」
「えっ……あ、うん、そうだね」
「立てるっすか?」

 子津は立ち上がって、座り込んでいる牛尾の手を取って立たせる。少しきつそうに眉を顰めてゆっくりと立ち上がり、牛尾はそこで、あ、と小さく呟いた。

「……出ちゃった」

 ぺろ、と小さく舌を出してみせて、牛尾は苦笑した。それが何故かとても幸せそうなので、子津が牛尾をまじまじと見ると、内股からつう、と一筋の白い液体が流れている。子津はギョッとして、それから頬を真っ赤に染めた。

「すいませんっす」
「どうして? 勿体無いくらいなんだけど、しょうがないよね」

 勿体無いって……。子津はますます頬を赤らめながら、とりあえず手元のシャワーの栓を捻った。すると、背中に冷たい飛沫がかかった。驚いて子津が振り向くと、牛尾が笑いながら隣のシャワーを出している。

「謝った罰!」
「はぁ?!」
「ホントはね、もっと、もっと、子津くんが欲しいんだよ!」
「うっうわ、ちょっと……冷たいっす〜!!」
「逃げるな! 僕の愛を受け止めたまえ」
「キャプテンの愛ってこんな冷たいんすかぁ〜?!」
「そうだよ、知らなかったかい?」

 楽しそうに笑う牛尾を見て、こんな幸せそうなキャプテンが見られるのは役得以外のなにものでもないと子津は思う。冷たいシャワーをかいくぐり、牛尾を腕を掴む。捕まえたっすよ、と子津が言おうとして、牛尾の腕が急に重くなった。

「キャプテン?!」

 慌てて牛尾を支えると、牛尾は照れたように笑った。

「ごめん。やっぱり、立ってられないっていうか、多分歩けない……」
「キャプテン……」

 自分のせいだ。だが、謝ってもまた怒られるかなと子津もだいぶん学習をしたのだ。シャワーをとめて、牛尾をしっかりと抱いて、一緒に出口まで行きますから、とだけ言うと、牛尾はありがとう、と笑った。





 次の朝、十二支高カメラマンペアが激写した『突撃! 野球部鬼合宿後日談〜選手達の寝顔編〜』の中には、泥のように眠っている子津の寝顔があり、普通に寝ている他の部員と比較されたりしないかと、子津は冷や汗どころの話では無かった。だが、2,3年生には被害が無かったのが幸いだったと子津は思った。いとしい人の寝顔が全校生徒に晒されてはたまらない。



 合宿が楽しかったのは温泉のおかげかな、と子津はふと思って、それからすぐに一人で赤くなった。












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