「オレってさあ、めちゃくちゃ幸せ者だと思うワケよ」
 ホークアイ中尉が入れてくれた紅茶を啜りながら、エドワードは呟くように言った。エドワードの持ってきた定期報告書を面倒くさそうに捲っていたロイ・マスタング大佐は、エドワードを見向きもしないでほう、とだけ言った。しゅんしゅんとやかんの沸騰する暖房器の置かれた執務室は暖かく、何のことも起こらないような穏やかな空気が流れていた。
「何か言ってよ大佐」
「相変わらず硬い文章だ。これだけ見ているととても君が書いたとは思えん」
「ソレはどーでもいいんだよ」
 む、と顔を上げて睨み付けると、失敬、とロイはそんなことを少しも思っていない表情で肩を窄めてみせた。報告書をばさり、と机において、
「とうとう赤飯でも炊かんといかん出来事でも?」
「どんな風習だよ。つか多分あんたの思ってるよーなことまったくないんだけど」
「その割には聞いて欲しくてたまらない顔だ」
「こんなことあんたにしか言えないんだもん」
「どうして」
「消去法」
「その事実も経過も光栄に思っていいのか良くないのか……」
「ねー聞いてよたいさー」
「ああもう何だ。聞いてやるからとっとと話せ。私は忙しい」
「オレさぁ、アルフォンスに告白されちゃったんだよね」
 ロイは一呼吸置いて、そろそろと机の上のカップに手を伸ばし、ぬるいコーヒーを啜った。
「何と言われた」
「ずっと傍にいるって。何があっても一緒だって」
 成程告白だ、とロイは思った。この兄弟にはそういう類の言葉しか合わないだろう。今まで幾度もアルフォンスと密かに対話をしてきたロイにとっては納得の行く表現だった。
「良かったな」
「………うん」
 エドワードは窓の外を見ながら頷いた。ロイの言葉をそのまま受け止めていることも、ロイがそういう言葉を口にしたことも、普段の彼らを見知った者は驚くかもしれない。
「いやホントに良かった」
「あんたにそんな喜ばれるのもくすぐってぇな」
「これで安心して寝られる。夜中にいきなりアルフォンス君のすすり泣きの声の電話で叩き起こされることもない。デートの最中に遥か彼方から突進してきて抱き付かれて隣の女性に横っ面をはたかれたりすることもない。平和だ。なんと素晴らしいことだ。めげずに生きてて良かった」
「……………え、…………えーと。そんなに酷かったのか?」
「ふふふ。この先一週間以上欝になりたい気分なら聞かせてやろう」
「いえあの。スイマセンご迷惑かけて」
「本気で謝って欲しいならその言葉を土下座であと百万回ほど言わせているよ。して欲しくないからしなくていいけど」
「……アンタの外見とセリフからはまったく想像出来ないほどの面倒見の良さはホント凄いと思う」
「それで何だ。それだけを言いたいわけじゃないんだろう、鋼の」
 エドワードは唇を引き締めて、俯いた。
「幸せすぎてどうしていいか判んねー」
「惚気るつもりならあとにしてくれ」
「オレ本気で困ってんだよ。……ホント、どうしていいか判んねぇ……」








  このあと多分「ぶっちゃけオレはアルとセックスするべきなのか?なぁどう思う大佐?」とか真顔で聞いたんだきっと(きっとって何だよ!!)迷惑極まりねぇなあこの兄弟。