sugar soul,sugar nape









「……っくは、く……ふ……」
「兄さん……」
「あ……アホ……お前な……ぁ、クソッ……」
 兄さんはばたりとシーツに身を投げ出して、大きく呼吸をした。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ……」
「兄さん?」
「死ぬ……かと……思、った……はぁっ」
「気持ち良すぎた?」
「クソアル!いっぺん死ね!」
「ふふ、ごめんね。もうちょっと慣れたらいいんだけどね」
「………あ……アホ、まだ…やんのかよ」
「……うん……」
 ボクは覆い被さるような体勢で、息の荒い兄さんをうっとりと眺めた。
 兄さんは行為の後の姿が一番色っぽい。もちろん最中も前も、日常生活の中でもとても色っぽいのだけど、達したばかりの姿はもう格別だ。濡れて光る小さなくちびるを震わせて、荒い息の合間にボクに向かって、掠れた声で、力なく罵詈雑言を浴びせる。それがもう、ボクにはたまらないのだ。玉の汗と白い精液が飛び散る兄さんの胸は呼吸で上下して、まだぷっくりとピンク色に尖っている胸の突起が、さきほどまでの強い快感の余韻を物語る。
「兄さん……」
 兄さんは目だけボクに向けて、何だよと言う。
「兄さんって……ほんとにエッチな体してるよね……」
 ボクがあんまりにもうっとりと呟くので、台詞の内容よりもそっちのせいで兄さんは首筋まで赤らめた。
「………マジで死んで来い」
「ふふ。そういうコト言われると、すっごく興奮する……」
「…………アホ………」
 羞恥のあまりもうそれしか言えなくなって、すっかり横を向いてしまった。ただ体だけは疲労困憊してるので、首だけ向こうにむける形で。
「もう……すんじゃねーぞ」
「うん、こうやって見てるだけで頭ぐらぐらしてるから、もうしない」
「つーかな、見んなヘンタイ」
「……ごめん、その台詞もすっごいドキドキした……ごめん………」
「…………………」
「………兄さん」
「……あー」
「ごめん、どうしよ。またしたくなってきちゃった」
「お前な……」
「兄さん……明日出発、延ばそ?」
 ボクは恍惚と、ボクのお気に入りの、白く滑らかな兄さんの首筋を撫でた。
「ひ、ぁ」
「ね?」
「あ、アホ、……ンでそんなコト、…っひ」
「兄さん、兄さん」
 ボクは精神がどこか壊れているのかもしれない。それは良く思うことだけど、それは絶対ボクだけのせいじゃないんだ。目の前のこの人も責任はある。ボクは兄さんの綺麗な体を手のひらでゆっくりなぜると、兄さんは瞳に涙をためて身を捩った。
「あ、や、……っは、くふ」
「兄さん……兄さん……」
「ひ……あ……や、や……だ、ホントに……っひ、あぅ」
 脱力しきった兄さんの腕はボクを押しとどめる力があるはずもなく、逆にその儚さがボクを燃え上がらせる結果になる。
「可愛いよ……なんでそんなに可愛いの……兄さん……」
「いっ……あ、アル、アル、アル……あぁっ……!!」
 ボクが兄さん自身をするりとなで上げると、それだけで達してしまった。
 本当に感じやすい人なのだ、この人は。喜怒哀楽の激しい人だけに、体も呼応しているかのように。そこがたまらなく、愛おしい。抱き締めたい。抱き締めてもボクには何も判らない、兄さんの呼吸も体温も肌のなめらかさも判らないけれど、ぎゅうぎゅう抱き締めてキスをしたい。…ボクには何も判らないけれど。
 口に手の甲を当てて、はぁはぁと息をして、一生懸命呼吸を整えて、長いばさばさの睫を瞬かせて、溜まった涙をぽろぽろと頬に零した。
 綺麗すぎるよ、兄さんは。何かの芸術品みたいだ。ガラスのケースに入れて飾っておいて、いつでもそばにおいておきたいよ。それは出来ないことなのかなぁ。
「兄さん。兄さん」
「………はぁ、……ふぅ、はぁ」
「兄さん」
「……………クソ………っ、はぁ、はぁ…」
「兄さん、キスして」
「………あぁ?」
「キスしてよ」
「……判んねえクセに」
「判らないよ、でもキスしてほしいんだ」
 兄さんはまだ息を整えながらちょっと考えて、それから体を起こして、半ばやけっぱちのように、ボクの首に両腕を回した。顔を近づけて、一瞬躊躇うように動きを止めて…睫を震わせて、すこしあきぎみのくちびるを、ボクのぎざぎざの口の、少し横の部分に押し当てた。
「……………」
 兄さんは肩で呼吸をしている。まだ離れてくれない。くちびるをくっつけたまま、呼吸をしている。
 愛しいひと。世界中で一番愛しいひと。
 兄さんのすべてが愛おしい。こんな行動の何から何まですべてが愛おしい。世界をこんなにも輝かせて見えるのは、生身の体をこんなにも渇望するのは、すべてこの人が生きていることに繋がる。
「兄さん…………」
「…………………」
「ボク、兄さんがいたら、何もいらないや」
「………んなこと言うな」
「ホントだよ」
「ホントでも言うな」
「何もいらない」
「…………莫迦アル」
 兄さんはまたひとつ涙を零したけれど、あんまり近すぎて、ボクには見えなかった。