melancholic margarine syndrome












 あーヤバい。グラグラする。ていうか頭の中が真っ白だ。
 何やってんだオレはと僅かな理性で考える。
 オレはベッドの上です多分。もうなんか自分がどこにいるのかも判んねえ。
 弟に組み敷かれて、アソコ扱かれて、ケツの穴をいじくられてます。何やってんだか。つーか有り得ねえだろ弟に何されちゃってんのよオレ? これってどう考えてもセックスよ? じ、自分の弟に……。何故だ。

 あー、ちょっとタンマ、このくそったれアル! うーわーやめろってやめろって、オレを殺す気かテメエ!! ギャーッッ死ぬ! 死ぬからマジで!!

 オレはそういうコトを叫びたいのだが言葉にならない。喋れてたら苦労はないのだいつもいつも。しかしぶっちゃけ、喋れていたとしても大して状況は変わらん。むかつく。

「あっ………くっ、ぅっ、ふ、ぁ、あっぅ」

 オレはみっともなくぼろぼろ泣きながら、せめてさっき心の中で叫んだ単語のひとつでも口に出そうとするのだが成功した試しがない。ただただ、オレの体の外と中を動き回り這いずり回り掻き回す弟の指に翻弄され続けるだけだ。

 あ、ダメだヤバい。マジで死ぬ。何なんだコレ。うわ、ちょっとちょっとアル、アルフォンスさんコレはダメでしょうが君のお兄さんが死んでしまいますよちょっとちょっと、

「うくっ、ぅ、あぁぁあーっ……………」

 全身が総毛だって、頭のてっぺんへと駆け抜けていって、体中の血液が沸騰して一点に集まって、とにかく熱くて熱くて頭の中が真っ白で、もうよくわからん……オレは死ぬのか……はは。そう言いながら死んだ試しはないのだ。

 ぼたぼたと何か生温いものがオレの腹に落ちてくる。あーはいはい判ってます判ってます。何かがってもう何でもいいじゃん。オレは何にも考えられないのでただ呼吸をしながらぼうっとそれを感じるだけだ。しばらくしたらそれも綺麗さっぱりオレの腹の上から消える。……オレがそれを命じない限りはそのままなのが一等悔しいが。

 そしてアルが、アルフォンスが、あのアホが、さっきからしきりに何かを喋っているのだ。聞こえている。オレはよーく聞こえていますとも! 初めのうちはいちいち反応して殴る蹴るしていたが、あまりにも我慢の限界と言うか、どうしてもこうしても何ともならず、オレのアホの弟が喋る言葉があまりにもオレの体を刺激するので、耳を塞ぐことも出来ないなら慣れようと思ってしまったのが間違いで、全然ダメで、ああ、えっと何? あゴメンオレ何喋ってんだか判らなくなってきた。要するに恥ずかしいことばかり口にするわけですよあのアホは。もう喋らないで〜ギャ〜とオレは体中に鳥肌が立つ。

「兄さんヤバい。可愛すぎる」

 ヤバいのは君だよアルフォンス君。お兄ちゃんはとっても心配だよアルフォンス君。君の目は節穴ですかアルフォンス君。あ、ホントに節穴だった。何だかあんまり笑えない。それだけの力がないだけかもしれんが。

 あー死ぬ、っていうか死ぬかと思った。もうイヤだ絶対イヤだ次は殺す。殺すなんて絶対オレには無理なんですけど。弟を殺すなんて出来るワケが無い。ああ、可愛い可愛い弟よ、何が間違ってこんなことになってしまったのか。お前をこんなにしたのはオレで、オレをこんなにしてるのはお前で、因果関係も何も有りまくりで、オレは実はなっちまったことに後悔するでもなくアイツはこうなってることをオレのせいにもせず毎日こんなことを繰り返している。

 アイツはオレを愛しているんだそーです。

 なーんにもする気が起きないので(当然だオレはケツの穴をいじくられているのだダメージはデカいしかも相手は弟だ有り得ない)ただ酷く息をしていると、アルフォンスがあのバカヤロウがオレをじーっと見る。見るなアホお前はヘンタイかー! という言葉は罵倒語でも何でもなく真実の言葉なのだ。見るだけじゃなくて悪戯を仕掛けてきます。もう本当に勘弁して下さいアルフォンスさん、オレは仮にも貴方のお兄様なのですよー! 何をなさっているんですかー! 兄上の乳首を捏ね繰り回すのは止めなさいホントに。両手で摘むな捻るな撫で回すな押しつぶすな。しつこいから。立つからホント。

「可愛いなあ……まだこんなに硬いよ、兄さん」

 お前が触っとるからじゃボケー!! そして当然のことながらそんな事すら喋れない。口から出るのはガキみてぇな甘い甘い、泣き叫ぶような声。

「ひぁ、ぅ、……あ、やぁ、やぁ、アル…アル…」

 オレは本当はこのアホもうやめろいっぺん死んで来いマジで勘弁してお願いだからーとか叫んでいるつもりである。しかし悲しいことにアルフォンスには伝わらない。

「ふふ、もっと……? こんなくらいがいい? それともこんなの? ねぇ? 兄さん」

 しかも逆に伝わっている。オレは何にも言ってねえだろが何がもっとだこのアホーー! このアホって言うの何回目だろう……何回って、一度も口にしてねー(出来てねー)けどな…… 。その間にもアルフォンスの指は魂だけの指令とは思えないほどに憎らしいほどに滑らかに技巧的に動いて、うわー死ぬもうやめてほんとお願い、ソコはダメー! ギャー! ギャアアあ!! あ、あ、あ、ちょっと待ってほんと、マジこれヤバい。おい、

 …………あ。

「ひぁぁぁ、あーっ」

 頭の中、真っ白。

 えー本日何回目だこれは。あはは。オレは泣きすぎて枯れ果てた声で、肩で呼吸をした。腹にアレが落ちてくる。男として有り得ない。何で下半身を刺激されずに達することが出来るんだ。もう駄目だなぁオレは。

 そんで、またですよ、アルは例の言葉を頭悪いのかお前という頻度で繰り返す。もう判った聞き飽きた。言うなもう。言うなつって言わなくなった試しもないんですハイでも言いたくもなるのよお兄ちゃんは。あのよー、その言葉ってお兄ちゃんに向かって言う言葉じゃないと思うんだよオレは。……いや、なんつか、弟に毎晩何度も指でイかされてる事自体もうおかしいことなのでもうそれはいいのか別に。いや良くない。譲れないこともあるだろうっておいオレよ、弟にアレなことやコレなことをされているのは譲れるのか。はは、わーい笑えるー。

 アルが、まだ、しつこく呟いている。もうアレだな、パブロフの犬だな。……オレが。泣きたくなってきた。アルに可愛いと言われると体が反応するようになった。ちょっと待てエンドレスか? もう本日3回くらいオレは生死を彷徨ったのですがこれはどうなんでしょうアルフォンスさん。知っててやってんですかアルフォンスさん。……ホント罪なのはオレの若さなのかどうなのよコレ。うわあ。また勃っちゃってるのねコレ。元気だなオレ。笑えてしょうがない。アルフォンスはもう、オレが目を覆いたくなるくらいに悦んでいるのがものすごーく良く判る。ああ。ああ。ああもう。……アホだー。

「ふふ、いっぱいいっぱい気持ちよくしてあげるね」

 気持ちいいどころの話じゃねんだよ! お前は絶対誤解をしている! 何度も言うが俺は毎回死に掛けているのだ。言葉の綾でなく真剣にだ。お前はオレを殺したいのか。ああでもそうなのかもしれんなアルはオレを実際殺したいのかなーって何を弱気になっているオレ! この鋼の錬金術師、エドワード・エルリック様が弱音を吐くただのガキなんて思われてみろオレは自分で自分を許せねぇ! ……弟に突っ込まれてる自分は許せるのかなー……はは、自分で自分に突っ込めるようになったら大したもんです。ねぇ師匠。うわ今の状況にすっごいヤな名前。オレはアルに殺される前にこの人に殺されるなぁ。うん。このことは黙っておかねば。

「兄さん、愛してる」

 そうかそうか弟よ、愛してくれているのかこの兄を。ありがとうよ、でもたまには兄さんからも言わせてくれよ。言うタイミングがないのだ。毎晩泣かされて声は掠れて、気が付いたら気を失ってて、一体いつ言えばいいんだ。明るい昼間に言えるわけが無いから夜に言いたいのに夜はだからダメなんだ。ひょっとしてお前は言わせたくないのか。兄の口からこの言葉を聞きたくないのか。理由がさっぱり判らんのだがもしかして本当にそうなのか?

「愛してる。誰よりも」

 何で言わせたくないのかなぁとオレは働かない頭で考える。この長い夜、オレはそれだけを動かない頭で考える。朝起きたら忘れている。アル。アルフォンス。オレの弟。

「どこにも行かないで。ボクだけを見て。僕のためだけに泣いて。ボクにだけ笑って見せて。可愛い兄さん。ボクだけの兄さん。愛してる。他には何もいらない。だから傍にいて」

 こんなに傍にいるのに、こんなにしつこいくらい繋がっているのに、バカなやつだ。やっぱりアホだ。オレもだけど。良く判らない。眠い。アルがいる。いつものことだ。アルが傍にいる。

「兄さん、おやすみ」

 これ以上の幸せもないのかきっと。アルが傍にいる。バカなヤツほど可愛いのだ。オレも相当バカだからアルには可愛いとか思われるんだろうか。ああまた腹が立ってきた。だがオレは眠いのだ。アルが傍にいる。この眠気は幸せな眠気だ。オレはどろどろのマーガリンになる。