*はちみつリップス*








「や、子津くんっ」

 御門さんが躯を捩るのを、僕は冷静な目で見下ろした。冷静なのは頭の中だけで、僕の躯の中心はもう爆発寸前だ。何せ目の前の人は、僕が躯に触れるだけで腰に来る声を漏らすような人で、少しでも敏感な部分に触れれば彼は涙を溜めて僕を見上げる。この先僕がしようとしていることを一秒でも早くと、待ち焦がれる甘えた表情だ。

「ねぇ」

 御門さんが目を閉じて、唇をかすかに突き出している。うっすらと開いたその紅く濡れた唇からは、先程までの僕の愛撫に充分潤った呼吸が感じ取れる。僕は御門さんに近付き、息がかかるまでゆっくりと近付いて……ふいに首筋に顔を埋めた。

「何すか?」

 御門さんは腕を僕の背中に回して抱き締め、意地悪と呟いた。





 貴方に意地悪をしたくなるのは、全部が全部僕だけのせいじゃない。





「っあ、あっ、子津く……あ、やぁっ」

 御門さんは惜し気も無く、その甘い声を僕に聞かせてくれる。この人は感じやすいから、多分どうしようもないんだ。御門さんの中は熱くて、その唇は僕を吸い込もうとしているかのように、紅い。僕は僕でどうしようもないのは御門さんへの感情、それが行き場を無くしてしまって、僕は御門さんの中をめちゃくちゃに突き上げる。

「あ、イイ、ぁっ……好き、子津くぅんっ」
「御門さん……っ」
「子津くん、子津くんっ……すき、だいすき」

 呼吸するにも必死で、言葉すらまともに紡げない状態で、この言葉だけは絶対に言うんだ。僕にしがみついて、子供みたいに泣きじゃくって。

 どうしてこんなに可愛い人なんだろう。こんな事をしている最中に、こんな事を言われて、僕の身体は歯止めがきかなくなる。この人が達する顔を見たくて堪らない。これはもう、完全にこの人のせいだ。
 僕は、御門さんが一番啼いてしまうポイントを突き上げる。惰性や本能じゃなくて理性でしている事だ。完全に目の前の愛しいひとに溺れているというのに、こんな時でも僕は、頭の中だけはずっと冴えたままでいられる。不思議なんだけど、物凄くありがたい事だ。この人を目の前にして理性をなくせば、僕はきっと、嫌われても仕方ないような酷い事をしてしまう。
 僕は腰を引いて一気に押し入った。途端に御門さんは僕の腕を掴む力を強くして、仰け反る。

「やっ、あっ、ソコ……あぁっ」

 御門さんの躯は震えている。もうそろそろかな。冷静に状況を判断出来ているようで、その実、そろそろなのは僕の方だ。この人の躯は、なんて、気持ちがいいんだろう。理性なんて手放してしまいたいほどに。

「も、ダメ、いく……あ、あっ」
「御門さ……っ」
「ダメ、ダメぇ、あぁ……っ」

 ぽろぽろと涙を流して、御門さんは一瞬きつく僕の背中に爪を立てた。
 精を放出する瞬間、僕は御門さんの顔を確かめる。なんて綺麗なひと。





 御門さんと僕は、ベッドの中で手を繋いで、しばらくそのままでいた。僕は余韻に浸っていたし、手のひらに感じる御門さんの暖かさに、傍にいるという安心感が倍増されて、かなり穏やかな気持ちでいたのだ。

「御門さん?」

 御門さんが、手を繋いだまま、ころころとシーツの上を転がり始めた。勿論僕の腕を下敷きにしたりそれが逆になったりして、僕が御門さんを見つめると、御門さんはふふっと微かに、幸せそうに微笑んだ。あの部位を酷使させてしまった直ぐあとでそんな事をして大丈夫なのかな、と心配になって聞いてみると。

「じんじんしてる」
「ほら、言わんこっちゃないっす。じっとしてて下さいっす」
「違うんだ。痛いっていうか、子津くんがね、まだ、僕のここに入ってるような気がする」

 僕が顔を紅くすると、御門さんも恥ずかしそうに視線を逸らした。

「じっとしてたら、痛くなくなっちゃうんだ。でも、転がる度にじんじんして、子津くんが感じられるから、凄く嬉しくて……ずっと、このままだと、いいのにな」

 僕の手のひらを両手で包み込んで、御門さんは微笑んだ。

 ああ……なんて、なんて事を言うんだ、この人は! 僕にいつも理性があるなんてとんでもない、そう思っていただけなんて、気付かされてしまった。この人はどれほど僕を狂わせれば気が済むのだろう。判っていてこの人を求めた僕は、愚かとしかいいようがない。この世の誰よりも甘い幸福を手に入れてしまって、僕はもう、それを手放す事など、出来やしない。

「みかど、さん」

 思わず喉に絡まるような声が出た。僕はびっくりした。こんな声が出せるのかというくらいに、情欲に満ちた声で、御門さんもそれに気付いてしまったみたいだ。御門さんは頬を染めて、上目遣いに首を傾げ、こう言った。

「もう一回、してくれる?」

 僕は永遠に、この人の手の中から逃れる事は出来ない。













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